サマリ
「営業の何%がAIを使っているか」だけでは、導入後の設計には足りません。Anthropic Economic Indexは、Claudeの会話をプライバシー保護された方法で分析し、どの職業タスクで、どんな成果物を作り、どの程度AIへ任せたかを観測しています。
2025年11月の実利用ログでは、コンピュータ・数理タスクがClaude.ai会話の34%、Anthropic自身が提供する1P(ファーストパーティ)API記録の46% を占めました。同じClaudeのサービスでも、人が画面で対話するClaude.aiと、プログラムから呼ぶ1P APIでは用途構成が違います。Claude.aiの協働パターンは拡張52%、自動化45%でした。
一方、2026年6月の最新版「Cadences」は、分類器、O*NETの版、サンプリング方法を変更しています。したがって、旧版と新版の数字の差をそのまま利用者行動の変化とは読めません。最新版の価値は、職種別割合の続きよりも、成果物・委任度・自己申告を利用ログと結びつけたことにあります。
結論は、職種名だけでAI導入順を決めないことです。業務をタスクへ分け、成果物、任せ方、人が確認する条件まで記録して初めて、実利用データを自社の設計へ移せます。

職種別データを自社設計へ変える3段階
外部の利用割合を、そのまま自社の導入順位へ置き換えないための読み順です。
- 業務タスクへ分ける職種名ではなく、入力、作業、成果物がそろう単位へ分解する
- 任せ方を決めるAIへ委任する範囲と、人が判断・修正する箇所を明示する
- 実利用で測る利用率ではなく、成果物、成功条件、手戻りを継続記録する
職種別割合は候補探索に使い、導入判断は業務タスク別の実測で出します。
データ: 最新版は「何を測るか」を変えた
2026年6月26日公開の「Cadences」は、従来の7日間の標本から、毎日・毎時に一定数の会話を抽出する方式へ変えました。会話をONETの職業タスクへ対応づける分類器も刷新し、ONET自体を2026年2月公開のversion 30.2へ更新しています。
さらに、チャットとCoworkの会話を30超の「成果物」に分類しました。対象期間は2026年4月10日〜6月10日です。分類器は会話の93% に主要な成果物を認識し、上位は説明17%、文書・レポート15%、助言11%でした。
仕事目的の会話に絞ると、文書・レポート20%、説明9%、メール草案7%、分析・要約6%が上位でした。ただし、成果物の種類は業務価値や成功率を意味しません。たとえば文書が生成されても、採用されたか、修正に何分かかったかはこの割合だけでは分かりません。
新旧の割合を一本の時系列にしない
分類器、選択肢の並び、O*NET版、抽出頻度、製品構成が変われば、観測値も変わり得ます。AnthropicのAppendixは、分類器が会話を複数候補へ割り当て、そのうち信頼度が最高の候補からランダムに一つを選ぶことも明記しています。
したがって、「利用ログだから解釈の揺れがない」とは言えません。自己申告にある回答者の解釈差は減らせますが、代わりに分類誤差、製品利用者の偏り、分類設計の変更が入ります。本レポートでは、旧版は旧版内の比較、最新版は最新版内の比較として扱います。
データ: 同じClaudeでも、画面とAPIでは職種構成が違う
2026年1月版「Economic primitives」は、旧分類器を使った2025年11月の観測を、Claude.aiと1P APIに分けて報告しています。コンピュータ・数理タスクはClaude.aiの34%、1P APIの46%でした。Claude.aiの教育・図書館タスクは15%、1P APIの事務・管理支援タスクは13%でした。
ここから「全企業の46%が開発業務へAIを導入した」とは読めません。分母は企業数でも従業員数でもなく、抽出・分類されたAPI記録です。また1P APIはAnthropicへ直接届く開発者トラフィックで、Amazon BedrockやGoogle Cloud Vertexなど第三者プラットフォーム経由を含みません。
自動化と拡張は、雇用の置換率ではない
同じ2025年11月のClaude.aiでは、拡張が52%、自動化が45%でした。自動化は、タスクをほぼ一任する「指示型」と、人が主に環境からのフィードバックを返しながら反復する「フィードバックループ型」です。拡張は、学習、共同反復、検証を含みます。残りはどちらにも分類されません。
1P APIでは自動化が優勢でしたが、Claude.aiとの違いを製品面だけの因果効果とは言えません。利用者、投入するタスク、利用場面が同時に異なるからです。実務では、この比率を「チャットをAPIへ移せば自動化できる」という予測ではなく、対話利用と組み込み利用を別の運用として設計する根拠に使えます。
データ: 実測と自己申告をつなぐと、母集団の偏りも見える
最新版は2026年4月にEconomic Index Surveyを開始し、5月中旬〜6月上旬の利用ログと回答をプライバシー保護された方法で連結しました。回答者ごとに最大20セッションを無作為抽出し、セッションが5件未満の人を除外した最終標本は約9,700人です。
この標本は一般人口の代表ではありません。コンピュータ・数理職は回答者の約30%で、米国雇用の4%を大きく上回りました。管理職も回答者の23%に対し米国雇用は7%でしたが、管理タスクとして分類されたセッションは4%でした。この差は、管理職が管理以外のタスクにもClaudeを使っている可能性と整合的です。ただし、回答者構成とセッション構成という異なる分母の比較であり、この差だけから個々の利用内容や原因までは確定できません。
回答者の6割弱は、12カ月後にAIが単独でできる業務タスクの割合について、現在より高い選択肢を選びました。3分の1超は「大部分」または「ほぼ全部」をできると予想しました。ただし予測値であり、実現した能力や雇用変化ではありません。
また、回答者が申告した現在のAI対応範囲は、利用ログから算出する観測上の曝露を一貫して上回りました。一方、理論上の曝露は自己申告を上回りました。順序は次のように整理できます。
- 観測上の曝露: Claudeの利用ログで、実際に行われた職業タスク
- 申告上の曝露: 回答者が「AIだけでできる」と答えた自分の業務タスク
- 理論上の曝露: LLMで実行可能と評価された職業タスクの上限
三つはそれぞれ、実利用、認識、能力上限という別の問いに答えます。どれか一つを「AIが仕事を代替する割合」と呼ぶと、測定対象が崩れます。
自己申告の成果は、実測成果ではない
連結調査では、回答者の86%が速度、82%が対応範囲、69%が品質の向上を申告しました。サービス購入費の節約は27%、学習増は68%、自分のスキル価値向上は57%でした。
自動化比率が高い回答者ほど、給与、雇用安定、転職可能性、仕事の意味などへの期待が前向きでした。ただし横断的な観察相関です。前向きな人ほど委任しやすい、または別の要因が両方に影響する可能性を排除できません。自動化が楽観を生んだという因果結果には読み替えません。
岡崎の分析 — 職種名は探索軸、設計単位は成果物
経営会議では「営業へAIを入れる」「管理部門を自動化する」という職種単位の議論が起きがちです。しかしEconomic Indexは、役職とAIへ依頼するタスクが同じとは限らないことを示します。管理職は連結調査の23%を占めても、管理タスクはセッションの4%でした。Anthropicは、この差が管理職による管理以外のタスク利用と整合的だと述べています。ただし、異なる分母の比較であり、個々の管理職が何を依頼したかを直接測った値ではありません。
私たちは、職種別割合を導入候補の探索に使い、設計は成果物へ下げるべきだと見ています。「営業」ではなく「商談メモから次回提案案を作る」、「人事」ではなく「求人票の初稿と根拠資料を作る」と置き換えます。成果物が定まれば、入力データ、品質基準、権限、確認者を決められます。
自動化と拡張も二者択一ではありません。同じ業務の中で、情報抽出は自動化、判断は人との共同反復、最終承認は人、と分けられます。Economic Indexの分類を組織図へ貼るのではなく、業務フロー上の各工程へ貼る方が実装可能です。
もう一つ重要なのは、測定設計自体が変わることです。AI製品はチャットからClaude Code、Cowork、APIへ広がり、会話ログだけでは長時間のエージェント作業を捉えにくくなっています。社内ダッシュボードも「会話数」だけに固定せず、成果物数、完了条件、手戻り、人の確認時間へ更新できる構造にしておく必要があります。
提言 — どう付き合っていくか
1. 一つの職種から、上位10タスクを棚卸しする
職種名の導入率を集める前に、頻度と負荷の高い業務タスクを10件程度まで分解します。各タスクに入力、成果物、利用者、発生頻度を付けます。件数は標準ではなく、初回棚卸しの例です。
2. 成果物ごとに成功条件を決める
文書なら必須項目と根拠、コードならテスト、分析なら再計算可能性を定義します。「AIを使ったか」ではなく、「基準を満たす成果物が何件できたか」を測ります。
3. 任せ方と人の確認点を一組で記録する
自動化、共同反復、検証のどれかをタスクへ割り当てます。自動化には失敗時の停止条件、共同反復には編集責任者、検証には採否を決める人を置きます。
4. チャットとAPIを別の運用として評価する
チャットで有用だったことだけを根拠にAPI自動化へ移しません。同じ代表データで品質、例外率、人の確認時間、権限リスクを再評価します。利用面の違いとモデル性能の違いを分けます。
5. 月次で「利用」から「成果」へ指標を更新する
会話数、アクティブ利用者数は入口指標です。次に、成果物数、合格率、手戻り率、人の確認時間を追加します。分類器や業務定義を変えた月は、時系列に注記し、見かけの増減を利用者行動だけで説明しません。
本レポートはAnthropicの公開一次情報に基づく分析です。Anthropic Economic IndexはClaude利用者とAnthropicへ直接届くトラフィックを観測するもので、生成AI利用全体や労働者全体の代表統計ではありません。分類結果はプライバシー保護された自動分類に基づき、分類器・製品・標本設計の変更をまたぐ単純な時系列比較には適しません。
出典・参照データ
本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。
- Anthropic Economic Index report: CadencesAnthropic
最新版の公式ページ。日次・時間帯別サンプリング、成果物分類、約9,700人の回答と利用ログの連結、代表性の限界を確認
- Anthropic Economic Index report: Cadences(PDF)Anthropic
2026年4月10日〜6月10日の成果物分析、93%・17%・15%・11%、職種別回答者構成、自己申告成果と利用パターンの関係を引用
- Appendix to Anthropic Economic Index report: CadencesAnthropic
時間単位サンプリング、新しいO*NET分類器、O*NET 30.2への更新、分類例と分類限界を確認
- Anthropic Economic Index report: Economic primitivesAnthropic
2025年11月のClaude.aiと1P APIの職種構成、拡張52%・自動化45%、指示型32%、上位10タスクへの集中を引用
- Anthropic Economic IndexAnthropic
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