業種別レポート生成AI印刷業広告制作

【業種別】印刷・広告制作 — 制作代行から「運用伴走」へ単価を上げる

印刷・広告制作会社が持つ過去案件、仕様、校正、納期の知識を生成AIで次の販促施策へつなぎ、制作代行から月次の運用伴走へ広げるための着手順を示します。

分析
服部 淳
代表取締役 / 業務変革コンサルタント
公開日
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Key Findings

  • 個人経営を除く推計で、印刷・同関連業は1万3,371事業所、97.3%が従業者100人未満。1人当たり付加価値額は製造業平均を下回る
  • JAGAT会員企業の回答では生成AI導入がテキスト系33.7%、画像系32.7%まで進んだ一方、満足度は18項目中15位・14位だった
  • 最初の1業務は、継続顧客1社の月次販促レビューと、次回施策の指示書づくりである

サマリ

印刷・広告制作会社が生成AIを「制作物を早く、安く作る道具」としてだけ使うと、比較されるのは納期と価格です。制作時間が短くなっても、同じ成果物をより安く納める競争へ戻れば、付加価値は増えません。

一方、継続取引の現場には、過去のチラシやカタログ、校正履歴、用紙・加工・色の指定、店舗ごとの配布条件、繁忙期、承認者、締切が残っています。これらは単なる制作データではなく、顧客がいつ、誰に、何を届けようとしてきたかを示す運用の履歴です。

本レポートで、生成AIによって初めて取りに行きやすくなる付加価値と捉えるのは、原稿や画像の量産ではありません。過去案件と施策結果を横断して整理し、次回の対象、訴求、媒体、制作物、確認事項を一組の指示書にすることです。人手だけでは案件をまたぐ整理に時間がかかっていた会社でも、AIに下書きを任せ、人が確認する運用なら継続しやすくなります。印刷物だけでなく、Web、SNS、店頭、イベントまで含む販促サイクルを毎月一緒に回せれば、受注の単位を「制作物1点」から「運用期間」へ広げられます。

本レポートの結論は、継続顧客1社の月次販促レビューと、次回施策の指示書づくりを最初の1業務にすることです。AIは施策の成否や表現の適法性を決めず、過去案件、顧客が確認した実績、未確認事項を並べます。顧客と担当者が仮説を選び、制作・配信後の結果を次の月へ戻します。

データ:業界の現在地

1万3,371事業所の97.3%が、従業者100人未満である

日本印刷産業連合会「印刷産業 Annually Report Vol.5 2026年」は、印刷・同関連業の構造を整理しています。基になったのは、経済産業省の2024年経済構造実態調査製造業事業所調査です。調査は産業分類ごとに売上高上位9割を達成する範囲の事業所を対象にし、個人経営を除く全体を推計したものです。

2024年6月1日時点の印刷・同関連業は1万3,371事業所でした。従業者は24万4,616人です。2023年1年間の製造品出荷額等は5兆934億円、付加価値額は2兆2,583億円です。

規模別では、1〜9人が61.0%、10〜19人が17.3%、20〜29人が8.0%でした。30〜49人は6.1%、50〜99人は4.8%です。元の事業所数で100人未満を集計すると1万3,010事業所で、全体の97.3%です。

  • 1〜9人
    61.0%
  • 10〜19人
    17.3%
  • 20〜29人
    8.0%
  • 30〜49人
    6.1%
  • 50〜99人
    4.8%
  • 100人以上
    2.7%

日本印刷産業連合会が2024年経済構造実態調査を基に集計。各区分は小数第1位に丸めているため、表示値の合計は99.9%です。100人未満の97.3%は元の事業所数1万3,010を全1万3,371事業所で割った集約値です。

同資料が算出した1人当たり付加価値額は、印刷・同関連業で923万円でした。製造業全体では1,400万円です。企業ごとの収益性を直接示す数字ではありませんが、同じ顧客接点から得られる付加価値を見直す判断材料になります。

JAGAT回答企業では、生成AI導入が3割を超えたが、満足度は下位だった

JAGATの2024年度印刷産業経営動向調査は、会員企業を対象としています。回答企業は平均従業員135人、1社当たり平均売上高27.3億円の中堅層が中心です。無作為抽出による業界全体の推計ではなく、公開記事には回答社数も記載されていません。以下は回答企業内の割合です。

生成AIの導入率は、テキスト系が33.7%、画像系が32.7%でした。今後3年以内に導入予定とした割合も、画像系24.5%、テキスト系22.5%です。一方、5段階回答を重み付けした満足度は、画像系が0.25ポイントで18項目中14位、テキスト系が0.21ポイントで15位でした。

現在導入

  • テキスト系・導入済み
    33.7%
  • 画像系・導入済み
    32.7%

今後3年以内

  • 画像系・導入予定
    24.5%
  • テキスト系・導入予定
    22.5%

導入済みと導入予定は別の設問で、単純に足して将来導入率にはできません。満足度の点数は百分率ではないため、このグラフには載せていません。

導入率だけを追っても、何に使えば収益につながるかは決まりません。画像や文章を作れることと、顧客の販促運用を改善できることの間には、案件データの整理、結果の回収、仮説の評価という仕事が残っています。

データ:この業界だけの構造

業界全体では、販促接点が紙だけに限られていない

電通「2025年 日本の広告費」は、媒体社、広告制作会社、広告会社、各種団体などの協力を得て、日本国内で1年間に使われた広告費を推定しています。2025年の総広告費は8兆623億円でした。インターネット広告費は4兆459億円で、構成比は50.2%です。マスコミ四媒体は2兆2,980億円、プロモーションメディアは1兆7,184億円でした。

2025年の国内広告費の媒体区分

電通の推定値。総広告費8兆623億円に対する構成です。

  • インターネット広告費4兆459億円
    50.2%
  • マスコミ四媒体2兆2,980億円
    28.5%
  • プロモーションメディア1兆7,184億円
    21.3%

構成比28.5%と21.3%は、電通公表額を総広告費8兆623億円で割り、小数第1位に丸めて算出しました。媒体区分の優劣を示す比較ではありません。

同調査の関連市場推定では、総広告費に含まれない商業印刷市場は1兆7,500億円で前年比99.4%でした。一方、インターネット広告費は前年比110.8%です。紙をデジタルへ置き換えるかという二者択一ではなく、顧客によっては店頭、DM、Web、SNS、動画、イベントを組み合わせて販促を運用しています。

継続取引のある印刷・広告制作会社には、複数媒体をつなぐ材料があります。過去の版下、修正履歴、数量、納品先、色や加工の制約、顧客側の承認手順、季節ごとの締切です。物理拠点や物流の条件まで把握していることは、デジタル媒体だけを見る運用会社に対する参入障壁になり得ます。ただし、その知識が担当者のメールと記憶に分散したままでは、次の提案に再利用できません。

売るべきものを「制作物」から「次の判断」へ変える

顧客が必要としているのは、生成画像の枚数ではありません。前回の施策から何が分かり、次は誰に、何を、どの媒体で、どの順番で届けるかという判断です。

  1. 結果をそろえる案件ID、制作物、対象、配布・配信条件、顧客が確認した反応を一つに束ねます。
  2. 次の仮説を作るAIが過去案件との差分、継続すべき条件、未確認事項、次回案を指示書にします。
  3. 人が運用を決める顧客と担当者がブランド、権利、価格、媒体、締切を承認し、実施結果を次回へ戻します。

受注単位を制作物1点から月次の改善サイクルへ広げ、提案と検証を継続契約の価値にします。

生成AIは、結果を勝手に評価したり、使ってよい顧客データを決めたりしません。顧客が確認した売上、問い合わせ、来店、クーポン利用などを案件IDへ結び付け、原文へ戻れる状態で比較案を作ります。効果を測れない施策は「未確認」と残し、AIの推測を実績として扱わないことが運用伴走の前提です。

服部の分析

服部がこれまでに見てきた制作現場を、個社が特定されない共通の型にまとめると、顧客から最初に届くのは整った企画書ではありません。「昨年と同じ時期に」「店舗が一つ増えた」「今回は若い層にも届けたい」「価格はまだ確定していない」といった断片です。

経験のある営業やディレクターは、過去の制作物、修正履歴、配布地域、在庫、承認者、締切を頭の中でつなぎ、質問の順番を決めます。私たちは、ここに印刷・広告制作会社の参入障壁があると見ています。顧客の商売を知っているとは、業界知識を語れることではありません。顧客の曖昧な依頼を、実行できる条件へ変えてきた履歴があることです。

しかし、この仕事を見積書では「デザイン一式」「進行管理」にまとめると、価値が見えません。生成AIで原稿や案を速く作るほど、制作費を下げる圧力だけが強まる可能性があります。

反対に、過去案件を案件IDで束ね、顧客が確認した結果を戻し、次の施策指示書を定例で作れば、営業・ディレクションの知識を継続サービスに変えられます。印刷物が必要な月だけ呼ばれる会社ではなく、顧客の販促カレンダーを一緒に更新する会社になるのです。

ここで「単価を上げる」は、同じ制作物を高く売るという意味ではありません。月次レビュー、結果整理、次回仮説、媒体間の整合、承認の記録という新しい仕事を契約範囲に加え、その価値と工数を明示することです。実際に継続率、粗利、提案採用、顧客側の確認時間が改善するかは、自社案件で測る必要があります。

提言 — どう付き合っていくか

1. 最初の1業務を「継続顧客1社の月次販促レビュー」に絞る

全顧客の過去データを一度に取り込まないでください。毎月または定期的に販促物を作る顧客を1社選び、前回施策の結果整理と、次回施策の指示書づくりだけを対象にします。印刷物、Web、SNS、店頭のうち、実際に使っている媒体だけから始めます。

2. 制作物より先に、案件IDと結果の定義をそろえる

案件ID、目的、対象、商品、期間、媒体、制作物、数量、地域、納品日、承認者、実施結果を共通項目にします。結果は顧客が確認できる売上、問い合わせ、来店、申込、在庫などから選び、取得できない項目は未確認とします。個人情報、未公開商品、価格表、写真、原稿の利用範囲と保存期間も顧客と決めます。

3. AIには「次回施策の指示書案」を作らせ、人が承認する

AIの出力は、前回から継続する条件、変える条件、その根拠、必要な制作物、媒体ごとの役割、未確認事項、締切を一組にします。ブランド表現、著作権・肖像権、景品表示法や各業法、価格、印刷仕様、発注は、顧客と権限を持つ担当者が確認します。AIの提案から参照した案件と原文へ戻れるようにします。

4. 追加制作量ではなく、運用価値を測って契約を広げる

レビュー準備時間、指示書確定までの往復、提案採用、再校正、施策結果の回収率、案件粗利、継続発注を追います。指示書の質と顧客側の判断が改善したことを確認してから、対象店舗、商品、媒体を広げます。成果が確認できない段階で「AI運用費」という名目だけを追加しないことが重要です。

着手順は次のとおりです。継続顧客1社を選ぶ → 案件IDと結果をそろえる → AIで次回指示書を下書きする → 人が承認し、結果を次月へ戻す。最初の1業務は、月次販促レビューと次回施策の指示書づくりです。制作を安くする前に、顧客と次の判断をつくる仕事を契約へ変えてください。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. 印刷産業 Annually Report Vol.5 2026年
    一般社団法人 日本印刷産業連合会

    経済産業省の2024年経済構造実態調査製造業事業所調査を基にしたpp.2、6-7を参照。売上高上位9割の事業所を調査して全体推計し、個人経営を除く。印刷・同関連業1万3,371事業所、従業者24万4,616人、製造品出荷額等5兆934億円、付加価値額2兆2,583億円、規模別構成と1人当たり付加価値額を引用

  2. 生成AIの導入が進むも、満足度は低い
    公益社団法人 日本印刷技術協会(JAGAT)

    JAGAT会員企業を対象とした2024年度印刷産業経営動向調査。回答企業は平均従業員135人、平均売上高27.3億円の中堅層が中心。生成AIテキスト系・画像系の導入率、今後3年以内の導入予定、満足度順位と点数を引用。公開記事には回答社数が記載されていないため未確認

  3. 2025年 日本の広告費
    株式会社電通

    国内で2025年に使われた広告費を、媒体社、広告制作会社、広告会社、各種団体などの協力を得て推定。総広告費8兆623億円、インターネット広告費4兆459億円・構成比50.2%、マスコミ四媒体2兆2,980億円、プロモーションメディア1兆7,184億円を引用。商業印刷市場1兆7,500億円は総広告費に含まれない関連市場として区別